呉服の語源

着物のことを「和服」または「呉服」と呼ぶことがあります。
和服の「和」は日本のことなのでわかりやすいのですが、呉服の「呉」とは何でしょう?

飛鳥時代に、それまで日本にはなかった形の衣服が中国から伝わりましたが、この頃、中国では漢民族が支配者階級を占めており、この漢民族が着ていた袖口が大きく裾の長い服を「漢服」と呼んでいました。
一方、漢民族は異民族を「胡」と呼んでいましたが、胡の人々が着ていた細身で動きやすい服を「胡服」(こふく)と呼んでいました。
この「胡服」が、現在、着物を指す「呉服」の語源になったという説が一つあります。

一方で、3世紀頃に現在の中国にあった呉の国から伝わった絹織物を「呉服」と書いて「くれはとり」と呼んでおり、これが後に「ごふく」と読まれるようになったという説があります。
こちらの説では、呉服とは本来「反物」を指す言葉で、「着物」ではないとされます。

いずれにしても、「呉」は昔の中国を指すようです。
なお、「和服」は「洋服」に対応して作られた言葉であり、呉服の方が以前からあった言葉なので、「呉服屋」とは言っても「和服屋」とは言わないようです。

麻の着物

現在では、ちょっと良い夏のカジュアルな着物という位置付けの麻ですが、木綿が普及する江戸時代までは庶民の服として一般的で、貴族は下着として使っていました。
日本の各地に「上布」と呼ばれる上質な布が伝わっていますが、これは細い麻糸で織った布のことです。

洋服地としては、亜麻から作られるリネンを麻布と呼ぶことが多いのですが、和服地の麻は苧麻(ちょま、ラミー)という別の植物から作られます。
苧麻は「からむし」とも呼ばれており、福島県の山間部で作られている麻織物は「からむし織」と名付けられています。

現在でも、伝統工芸品の上布は苧麻の手績糸で織られていますが、この方法は非常に時間がかかるため、リーズナブルな価格で流通している着物には機械による紡績糸が使われています。

苧麻が古くから栽培作物だったことは資料によってわかっていますが、いつから栽培されていたか、元々自生していたのか、大陸から渡ってきたのかなどは、あまりにも古いことでよくわかっていません。

もんぺ

現在では「もんぺ」と言うと、ゆったりとした部屋着用のカジュアルパンツを指しますが、本来は着物の上に穿く作業用のズボンでした。
発祥はよくわかっていませんが、元々は東北地方の農民の女性が着ていたと言われています。
着物の裾を中に入れられるよう腰回りがゆったりとしていて、袴のように紐で腰に巻くのが特徴です。

第二次世界大戦中に、もんぺの機能性に着目した政府が奨励したことで日本全国に普及しましたが、反面、戦争に繋がる悪いイメージを持つようになった人も少なくありません。

戦後、洋服の普及と共に本来のもんぺは廃れましたが、洋服風にウエストがゴムになったり、少し細くなったりして、現在のような形になりました。
現在、和風の作業着としては作務衣の方が一般的になり、着物にもんぺを合わせることは非常に少なくなっていますが、可愛らしいという理由から遊び着として着る人も出始めているので、今後再び広がっていくかもしれません。

甚平(じんべい)と作務衣(さむえ)

最近、男性が浴衣の代わりに甚平を着ているのをよく見かけます。
また、それよりも以前から、甚平は男性の部屋着としてよく使われていました。

甚平の上は着物に似た格好で、袖がやや短く、下は膝丈くらいのズボンです。
江戸時代の末期に、庶民が夏に袖無しの上着を着るようになり、この形が「陣羽織」に似ていたことから「じんべい」と呼ばれるようになったという説が有力です。
現在のような形で上着が確立されたのは大正時代、ズボンは昭和の中頃だと言われています。

一方、甚平によく似た物に作務衣があります。
作務衣は、禅宗の僧侶の仕事着として生まれた物で、甚平より袖もズボン丈も長く、甚平に比べると厚い生地を使うことが多いようです。
袖口と裾を引き絞れるように紐が付いていることがありますが、これは作業中に埃などが入るのを防ぐためです。
元々作業着だったため動きやすく、現在では、男女ともに着ることができる夏以外の普段着として広く販売されています。

色々な下駄

浴衣やカジュアルな着物を着た時には下駄を履きますが、下駄にも様々な種類があります。
そのうち、現在もよく履かれている代表的な種類をいくつか紹介します。

【駒下駄】
一般的に下駄と言われて想像する形の、二枚歯の下駄です。
横から見ると、平らな板の下に四角い棒のような歯が二つ付いています。
足を乗せる部分(台)が地面から離れているため、雨の日でも足が濡れにくく、慣れると歩く姿が格好良く決まります。
一方、靴やサンダルとは大きく形が異なるため、慣れないうちは歩きにくいのが難点です。

【小町下駄】
駒下駄の一種で、前の歯と爪先が斜めにつながり、後ろの歯が踵の下まで広がっている下駄です。
前の歯と爪先部分の間に段差がないので歩きやすく、地面に付く面積が広いので安定感がありますが、やや重いのが難点です。

【右近下駄】
台が足に沿ってカーブし、踵側がやや高くなっている下駄です。歯の形は、小町下駄に似ています。
サンダルのような履き心地で、下駄が初めてでも比較的歩きやすいため、現在の主流になっています。

浴衣を着る時のバッグ類

浴衣に合わせるバッグやアクセサリーには、特に規定はありません。
「浴衣セット」という形で、浴衣と帯の他に下駄やバッグが付いていることもありますが、これは単純にその年の流行の物を付けているだけで、手持ちの物があればそれで十分に足ります。

ここ数年の流行として、女性用のバッグでは、底が籠になっている巾着をよく見かけます。
ただ、巾着は立ったまま物を出し入れするのが難しいので、小さな籠バッグの中に巾着を仕込んだ形の物も人気があります。

男性の場合、手頃なバッグを持っている人はあまり多くないようで、浴衣に合わせてバッグも買うことが多いようです。
男性用のバッグとしては、合切袋(がっさいぶくろ)と呼ばれる巾着に似た袋が人気です。
合切袋は最近生まれた物ではなく、少なくとも江戸時代には使われており、明治時代に流行した袋です。

また、男女とも、ごく小さなポシェットを斜めがけにする人も増えてきています。
両手を空けられるので、これも良い選択肢だと思います。

浴衣の洗い方

現在主流の浴衣は、綿100%か、綿70%麻30%ですが、この素材であれば洗濯機の手洗いコースで十分水洗いができます。

やり方は、デリケートな衣類の洗濯と同じです。
注意が必要な点として、色落ちすることがあるので、他の物と一緒に洗わないようにしてください。
お湯を使ったり漂白剤を使ったりするのも、色落ちが一層激しくなって浴衣の色があせてしまうので避けてください。
洗濯糊を使うかどうかは好みの問題ですが、糊付けした状態で長期間保存するのはカビの原因になるので、シーズン最後の洗濯の時には使わない方が良いです。

しまう時と同じようにきちんと畳み、平らで大きめの洗濯ネットに入れて、手洗いコースで洗います。
洗剤は、おしゃれ着用として売られている中性洗剤が最適です。
柔軟剤は、風合いが変わることがあるので、使わない方が無難です。

洗い終わったら、物干し竿に袖を通し、皺を伸ばして陰干しにします。
ここでよく皺を伸ばしておくと、アイロンを掛けなくても意外に大丈夫です。
気になる場合は、最後にアイロンで仕上げましょう。

浴衣の着方について

浴衣の着方については、最近ではインターネットでも簡単に調べることができます。
また、量販店で既製の浴衣を買うと、「浴衣の着方」というようなリーフレットが付いてくることがよくあります。

ただ、写真や絵だけだとわかりにくい部分もあるので、動画で全体的な流れを確認すると役立つと思います。
YouTubeで”How to wear YUKATA”というようなキーワードで検索すると、色々な動画がでてきますので参考にしてください。
動画で動きを見て、実際に着るときには写真や絵を見るとわかりやすいと思います。

もちろん、書店などで売られている教本は、とてもわかりやすく書かれていて役に立ちます。
DVD付きの物なら、さらにわかりやすいでしょう。

浴衣は気軽なカジュアルウェアなので、多少曲がっていたり皺が残っていても大丈夫です。
腰紐が緩むと裾がずり下がったり、はだけたりするので、ここをしっかりと締めることだけ注意してください。

浴衣の選び方

浴衣を購入しようと考えた場合、オーダーメイドと既製品という二つの選択肢があります。

予算と時間に余裕があるなら、呉服店で相談しながら自分に似合う反物で仕立ててもらうのが一番です。
しかし最近では、すぐに着られて安い既製品が主流になっています。

既製品から選ぶ場合に気をつけなくてはいけないのは、サイズ選びです。
一番多くの種類が出回っている、いわゆるフリーサイズの浴衣は、身長160cmくらいの人向きで、さらに少し余裕を持たせたサイズになっています。
浴衣は、どちらかというと裄も丈も短めの方が格好良く見えるので、実は背が高めの人、ややぽっちゃり型の人の方がサイズで困ることは少ないと思います。

逆に、背が低めの人や痩せ形の人の場合、大きすぎることがしばしばあります。
Sサイズを展開しているブランドもありますが、フリーサイズしかない場合、オーダーメイドも扱っているショップであれば、小さくする加工を引き受けてくれることもあります。
相談してみましょう。

代表的な浴衣の産地

最近では、様々なブランドから浴衣が出ており、海外で生産した生地で作られている物も珍しくありません。
一方で、高級浴衣の産地として知られている地域もあります。
そのうちのいくつかを紹介します。

【有松絞り】
名古屋市の有松地域で作られている絞り染めです。
この地域は耕作地に向かなかったため、江戸時代に当時の政策に従って移住した住民が、街道を通る旅人に売る土産物として絞り染めの手ぬぐいを作ったのが始まりと言われています。
技術の高さはもちろん、新しい感覚を取り入れたデザインも高く評価され、絞りの浴衣の代表として扱われています。

【浜松注染】
静岡県の浜松で作られている染め物です。
注染の技術が確立されたのは明治時代なので、それほど歴史は長くありませんが、独特の風合いできれいな色柄の浴衣がリーズナブルな価格で手に入るため、とても人気があります。
明治から大正にかけては東京で注染浴衣が作られていたようですが、大正時代に起きた関東大震災で工房を失った職人が、注染に適した気候の浜松に移り住んで、ここが注染浴衣の一大産地になったとされています。