着物を着るために必要な物

着物を着るときには、着物と帯以外にも必要な物が色々とあります。
レンタルの場合は、通常、必要な物はすべて揃っていますが、そうでない場合は自分で用意しなくてはなりません。

大きく分けると「襦袢」「着付け小物」「和装小物」の三つです。

襦袢は着物の下に着る物で、着物に準ずる物として扱われる重要なアイテムです。

着付け小物は、着物姿を整えるために必要な道具で、外からは見えません。
花嫁衣装など特別な着物を除けば、どの着物にも共通して使えます。
美容院などで着付けを頼むときや、着付けを習うために用意するときには、着付師さんや先生によって使う道具が違いますので、必ず、指定された物を用意してください。
特に指定がなければ、呉服店やデパートで「小物セット」として一式まとめた物が売られていますから、これを購入すれば簡単です。

和装小物は、外から見える物で、着物や帯に合わせてコーディネートします。
最低限必要な物は、足袋、半襟、帯揚げ、帯締めの四つです。

着物を着てみたいと思ったら

japanese kimono woman on the bridge

着物に興味を持って、着てみたいなと思ったら、どうすればよいのでしょう。

日本では、着物は代々伝えるものとされていますので、お母さんやお祖母さんが持っているかもしれません。
まずは聞いてみましょう。

残念ながら、なかった場合は、レンタルという方法があります。「貸衣装は立派で高価な物ばかりでは?」と思われるかもしれませんが、お店によっては、普段使いの着物を扱っている所もあります。また、最近では、観光地で簡単な着物レンタルをしていることもあります。

レンタルの良い点として、着た後の手入れの必要がないこと、保管場所が要らないことなどが上げられます。
また、着付けや髪のセットについても相談に乗ってくれる所がほとんどです。

自分の着物が欲しいという場合、最初は、手頃な価格のリサイクル品や既製品がよいでしょう。
購入するときは、あらかじめ予算の上限をしっかりと決めておきましょう。
十分な知識がないうちに高額な物を買ってしまうと、後悔することになりがちです。

金箔

豪華な着物には金色の装飾が施されていることがあります。
多くの場合、細かい部分は金泥(きんでい)で描かれ、広い部分には金箔が貼られています。

着物に金箔を貼ることを箔置(はくおき)と言います。
金箔以外に、銀箔、白金箔なども使われます。
箔置の中にも様々な技法がありますが、一般的な物として「摺箔」(すりはく)があります。
摺箔は、金箔を貼りたい部分に糊を塗り、ここに金箔を貼り付け、乾いてから余分な金箔を取り除くという技法で、最も豪華な仕上がりが期待できます。

金箔や銀箔は金属ですが非常に薄く、しっかりと糊付けされるため、簡単に剥がれることはありません。
とは言え、絶対に剥がれないわけでもありません。
しまう時には金箔の上に薄紙を当てる習慣がありますが、これは、万一金箔が剥がれたときに、畳んだ反対側に付いてしまうのを防ぐためです。

なお、少し昔の着物には粗悪な箔や糊が使われていたこともあるので、リサイクル品を買う時にはよく見て、変色や剥がれがないか確認すると良いでしょう。

鎌倉~室町時代の着物

12世紀末から、支配者階級の中心が貴族から武家に移ります。
鎌倉に幕府が置かれていた14世紀前半までが鎌倉時代、その後、京都に幕府が置かれた16世紀までを室町時代と呼びます。

武家は、元々は庶民で、力を持つことで高い地位を得た人々です。
そのため、平安時代までの貴族のような動きにくい服装よりも、庶民的な服を好む傾向があったようです。
こうして、正装の時は大袖を重ね着するものの、普段は小袖姿で過ごすという習慣が生まれました。

やがて、武家の好みを反映した独自の正装も作られるようになります。
束帯の重ね着を省略した物が「直垂」(ひたたれ)、十二単の重ね着を省略した物が「打掛」(うちかけ)です。

庶民の服は、平安時代からあった小袖でした。
資料によると、かなり裾を短くし、腰の部分で余った部分を折り返し、紐で押さえていたようです。
これが後のお端折りの原型になりますが、まだ幅広の帯は使われておらず、現在の着物姿とは少し違っています。
また、この頃から庶民でも経済的に豊かな人々が出るようになり、服装も華やかになっていきます。

もんぺ

現在では「もんぺ」と言うと、ゆったりとした部屋着用のカジュアルパンツを指しますが、本来は着物の上に穿く作業用のズボンでした。
発祥はよくわかっていませんが、元々は東北地方の農民の女性が着ていたと言われています。
着物の裾を中に入れられるよう腰回りがゆったりとしていて、袴のように紐で腰に巻くのが特徴です。

第二次世界大戦中に、もんぺの機能性に着目した政府が奨励したことで日本全国に普及しましたが、反面、戦争に繋がる悪いイメージを持つようになった人も少なくありません。

戦後、洋服の普及と共に本来のもんぺは廃れましたが、洋服風にウエストがゴムになったり、少し細くなったりして、現在のような形になりました。
現在、和風の作業着としては作務衣の方が一般的になり、着物にもんぺを合わせることは非常に少なくなっていますが、可愛らしいという理由から遊び着として着る人も出始めているので、今後再び広がっていくかもしれません。

真綿と生糸

着物に使われる絹糸には、一般的な正絹の着物に使われる生糸と、紬などに使われる紬糸があり、紬糸は真綿から紡がれます。

生糸は、蚕の繭をほどくようにして、蚕が吐いた糸を切らずに取り出して作ります。
この糸は800m~1500mくらいの長さがあり、これを何本か揃え、必要に応じて撚りをかけます。
ここまでの作業を行った糸を生糸と呼びます。

一方、真綿は、繭を薄く引き伸ばして作ります。
真綿の端から少しずつ糸状に繊維を引き出し、撚って作った物が紬糸です。
元々は傷や穴があって生糸を引き出せない繭(屑繭)を使って作っていたため、生糸よりもランクが落ちる製品とされていましたが、現在では貴重な伝統工芸品として扱われています。

生糸でも紬糸でもない絹糸として、紡績絹糸という物もあります。
これは、短い絹の繊維を撚り上げて糸にした物です。
光沢があまりないという欠点はありますが、柔らかく、屑繭からでも簡単に作ることができます。
紡績絹糸は洋服地に広く使われているほか、昔は銘仙にも使われていました。

紙布(しふ)

紙布とは、紙を糸のようにして織った織物です。
経糸と緯糸の両方に紙を使った物は「諸紙布」(もろしふ)、どちらかに絹糸を使った物を「絹紙布」、どちらかに木綿糸を使った物を「綿紙布」と呼びます。
紙を一度糸にしているため、紙そのものから感じられるような堅さはなく、軽くて丈夫です。

紙布が作られるようになったのは江戸時代からで、元々は要らなくなった紙を使って作られていました。
その後、改良されていく中で、専用の紙が作られるようになったそうです。

有名な産地として、宮城県の白石市があります。
元々この地方では和紙の生産が盛んだった一方、木綿や絹は貴重品だったためではないかと言われています。
江戸時代にこの地方を治めていた伊達藩主が紙布の生産を奨励し、献上品として使うようになったことで有名になりました。

現在は、生産者が少なくなって高価な貴重品になりましたが、人気のある素材として流通しています。
反物としてもわずかながら生産されていますが、帯にすると軽くて締めやすいため、帯地として使われることが多いようです。

安土桃山~江戸時代の着物

16世紀後半、織田信長と豊臣秀吉の時代を安土桃山時代と言います。
その後、17世紀から19世紀が江戸時代になります。
この時代は比較的戦乱が少なく、庶民の生活が安定したため、文化が大きく発展しました。

武家と庶民が力を付け、貴族が表舞台に出なくなったことから、日本の衣類はほとんど小袖になりました。
また、安土桃山時代には外国との貿易も盛んで、新しい技法で小袖を装飾することも行われていました。
さらに、貿易で利益を上げた商人は豪華な衣類を好むようになり、華美な小袖も作られたようです。
なお、安土桃山時代まで、庶民の服装は男女でそれほど変わらなかったようです。

江戸時代になると、女性の小袖は大きく変化を遂げますが、男性の小袖はあまり変化せず、結果的に男女の服装の違いが目立つようになります。
その理由として、江戸時代になると男性は規則に従う表の世界、女性は自由な裏の世界にいるものという考え方が広まり、男性が自由に服装を選べなくなったためと言われています。

女性たちが自由に服を発展させていった結果、現在のような着物と帯が生まれたのです。

麻の着物

現在では、ちょっと良い夏のカジュアルな着物という位置付けの麻ですが、木綿が普及する江戸時代までは庶民の服として一般的で、貴族は下着として使っていました。
日本の各地に「上布」と呼ばれる上質な布が伝わっていますが、これは細い麻糸で織った布のことです。

洋服地としては、亜麻から作られるリネンを麻布と呼ぶことが多いのですが、和服地の麻は苧麻(ちょま、ラミー)という別の植物から作られます。
苧麻は「からむし」とも呼ばれており、福島県の山間部で作られている麻織物は「からむし織」と名付けられています。

現在でも、伝統工芸品の上布は苧麻の手績糸で織られていますが、この方法は非常に時間がかかるため、リーズナブルな価格で流通している着物には機械による紡績糸が使われています。

苧麻が古くから栽培作物だったことは資料によってわかっていますが、いつから栽培されていたか、元々自生していたのか、大陸から渡ってきたのかなどは、あまりにも古いことでよくわかっていません。

紋の入れ方

着物に紋を入れる時には、通常、着物地に白で紋を描いたような仕上がりにします。
しかし、色の付いた地に白で描いてもきれいな白色にならないため、染めた色をいったん抜いて白に戻し、輪郭を描いてから、抜き過ぎた白を地と同じ色の染料で埋めて仕上げるという手順が取られます。
この方法で描かれた紋を「染め抜き紋」と言います。

染め抜き紋は、さらに、白で家紋を細かく描いた「日向紋」、輪郭線だけを描いた「陰紋」、陰紋よりも太い白線で輪郭を描いた「中陰紋」に分けられ、着物を着る場面に応じて使い分けられています。
一般的な礼装に使われるのは、最も正式とされる「染め抜き日向紋」です。

染め抜き紋以外に、白以外の色で紋を染めた物もあり、これは「染め紋」と呼ばれます。
また、紋を刺繍で入れることもあり、これは「繍紋」(ぬいもん)と呼ばれます。
染め紋や繍紋は正式な紋ではなく、ワンポイントの装飾として扱われます。
特に繍紋は、きれいな多色使いも可能になるので、家紋の代わりに凝った模様を入れることも多いようです。