お引きずり

お引きずりとは、着物の裾を長くして、床の上で裾を引きずるように着ることです。
婚礼衣装としてよく使われますが、舞台衣装としても使われますし、芸者さんもよく着ています。
お引きずりの振袖は、特に「引き振袖」とも呼ばれます。

元々は江戸時代に小袖の裾がどんどん長くなった結果、裾を引きずるようになって生まれたスタイルで、必ずしも礼装というわけではありませんでした。
また、歩きやすいように裾を上げる工夫から生まれたのが「おはしょり」なので、お引きずりでは本来おはしょりは作りません。
しかし、多少はおはしょりを作った方が動きやすく着崩れもしないので、現在は少なめにおはしょりを作ることが多いようです。

裾が広がった姿が綺麗に見えるため、昔も今も人気のあるスタイルですが、このまま屋外に出ることはできません。
少しの間なら手で裾を持ち上げて歩けばよいのですが、帯の下で紐を使って留めておくと便利です。
この紐を「しごき」あるいは抱え帯と呼びます。

沓(くつ)

「沓」は「靴」と同じ意味ですが、特に束帯などを着る際に履く物を「沓」と表記することが多いようです。

最も正式な沓は「靴の沓」(かのくつ)と呼ばれる履物で、黒漆を塗って仕上げた革製の靴です。
足首の部分は豪華な絹織物で飾られており、履くときには、この布部分の中に袴を入れていました。

この時代には靴下を履く習慣はありませんでしたが、靴の沓を履く時にだけ、靴擦れを防ぐために「しとうず」と呼ばれる靴下の一種を履いていました。
「しとうず」は、現在の足袋の原型と考えられています。

靴の沓は正装用ですが、これに対する日常用の履物は「浅沓」(あさぐつ)です。
浅沓のほとんどは桐を彫って黒漆を塗った木靴でした。
内側にクッションのような物を付け、布張りにしているため、木製の割りには履きやすかったようで、桐製なので軽いのも特徴です。

現在でも、神官が屋外で宗教的な行事を執り行う際には、浅沓を履きます。
しかし、長時間履くのには向かず、雨にも弱いので、見た目を模したゴム靴が使われることもあるようです。

ガロンテープ

洋服も同じですが、着物も裾と袖口が最初に傷みます。
そのために、袷の着物では八掛を外に少し出し、傷んだ場合は八掛だけを交換すればよいようにします。

しかし、現実には八掛を取り替えるのにも手間がかかります。
また、単衣の場合は八掛がないので表地がすぐに傷んでしまいます。

日常着として着物が着られていた時代には、八掛よりもさらに交換が簡単になるよう、裾と袖口に保護用のテープを縫い付けていました。
これがガロンテープです。
幅広の布テープの片側に飾りが付いたような物で、現在でも洋服や雑貨の飾りテープとして売られています。
このテープを八掛よりさらに外に少しだけ出るように、片側に付いている飾りが覗くようにして縫い付けます。

正装や礼装には付けませんが、今も普段から着物を着る人は付けているそうです。
中には、保護用としてだけではなく飾りとして付けている人もいるようです。
また、リサイクル着物の中には、以前の持ち主が付けたテープが残っている物もあります。

浴衣の歴史

浴衣の語源は、平安時代に貴族が蒸し風呂に入る際、水蒸気で火傷をするのを防ぐために着た「湯帷子」(ゆかたびら)だとされています。
湯帷子はその後、風呂上がりに水分を吸収させるバスローブのような物となり、江戸時代に庶民の間でも「風呂屋」に行く習慣が生まれると、風呂屋で着る簡易な服として普及するようになったと言われています。
「浴衣は外出着ではない」と言う人も時々いますが、その意見の根拠は、このような湯上がり着だった歴史にあります。

しかし、現在で言う浴衣は、当時の物とはだいぶ異なっています。
昭和の中期から着物文化が一時衰退した後、1990年代から「気軽に着られる着物」として新しいタイプの浴衣が作られるようになり、若者の間で流行した結果、生まれたのが現在の浴衣文化だと考えられます。
従来型の浴衣は、たとえば日本の旅館で用意されている部屋着や寝間着に引き継がれていて、おしゃれ着としての浴衣とは全く別の物であることが一目でわかります。

大島紬

大島紬とは、奄美大島を中心に作られている絹織物です。
一般的に大島紬と呼ばれますが、伝統工芸品としての正式名称は「本場大島紬」となります。

大島紬の発祥の地は、名前のとおり奄美大島で、奄美大島は鹿児島からさらに南にあります。
大島紬の産地には、奄美大島だけでなく鹿児島と宮崎も含まれていますが、これは、第二次世界大戦中に奄美大島の島民が鹿児島と宮崎に疎開し、この時に技術が伝わったためです。

通常、紬は紬糸から織られますが、現在の大島紬は練糸(ねりいと)で織られているという特徴があります。
紬糸は、生糸を引き出せない屑繭を精錬して紡ぎ出した糸で、全体の太さが均一ではなく、途中に節ができます。
練糸は、繭から引き出した生糸を精練して作った糸で、後染めの着物で一般的に使われている糸です。

昔の大島紬は紬糸を使っていましたが、絣模様を緻密な物に進化させていくうちに、太さが一定でない紬糸では不都合が出るようになったため、大正時代から練糸が使われるようになりました。
厳密な意味では紬でなくなりましたが、大島紬という名前は変わっていません。

関東巻きと関西巻き

同じ日本の中でも、着物の着方が地方によって違っていることがあります。
大きな違いがある例として、帯を右から左に巻くか、左から右に巻くかという違いがあります。

自分の体の前を帯が右から左に向かうようにして巻くのを関東巻きと言い、その逆が関西巻きです。
その名の通り、日本の東の方では関東巻き、西の方では関西巻きが主流です。

手先と呼ばれる部分が左右どちらに出るかの違いがある以外、どちらの巻き方でも仕上がりは同じです。
ただ、帯のお腹側の柄(腹紋)が、関東巻きと関西巻きで違う側が出ることに注意が必要です。
自分で着る場合は、自分がやりやすい方で気に入った柄が出る帯を選ばないと後悔します。
人に着せてもらう場合は、どちらを出したいか先に確認しておいて、そちらが出るようにはっきりと依頼しましょう。

両方の巻き方ができると、二通りの腹紋が入っている帯の両面を使い分けたり、一方の面が汚れた時に反対側を使えたりして便利です。

代表的な浴衣の産地

最近では、様々なブランドから浴衣が出ており、海外で生産した生地で作られている物も珍しくありません。
一方で、高級浴衣の産地として知られている地域もあります。
そのうちのいくつかを紹介します。

【有松絞り】
名古屋市の有松地域で作られている絞り染めです。
この地域は耕作地に向かなかったため、江戸時代に当時の政策に従って移住した住民が、街道を通る旅人に売る土産物として絞り染めの手ぬぐいを作ったのが始まりと言われています。
技術の高さはもちろん、新しい感覚を取り入れたデザインも高く評価され、絞りの浴衣の代表として扱われています。

【浜松注染】
静岡県の浜松で作られている染め物です。
注染の技術が確立されたのは明治時代なので、それほど歴史は長くありませんが、独特の風合いできれいな色柄の浴衣がリーズナブルな価格で手に入るため、とても人気があります。
明治から大正にかけては東京で注染浴衣が作られていたようですが、大正時代に起きた関東大震災で工房を失った職人が、注染に適した気候の浜松に移り住んで、ここが注染浴衣の一大産地になったとされています。

小千谷縮(おぢやちぢみ)

小千谷縮は、新潟県小千谷市周辺で作られている縮織りの麻織物です。
この地方では平織りの麻織物である越後上布も作られており、どちらも1955年に日本の重要無形文化財に指定され、2009年にはユネスコの無形文化遺産に登録されました。

1600年代の中頃、明石から小千谷に移り住んだ浪人の堀次郎将俊という人物が、この地方に以前から伝わっていた白無地の麻布(現在で言う越後上布)を、明石地方で作られていた明石縮という絹織物の技法で縮ませたのが始まりとされています。

無形文化財の指定要件として伝統的手法による生産があり、この製法で作られた物は「本製小千谷縮」と呼ばれます。
本製小千谷縮の工程の中で特徴的なのが、雪の上に反物を広げて日光に当てる「雪晒し」です。
この時、雪と紫外線が反応して漂白効果があるオゾンが発生し、反物がきれいになると言われています。

本製小千谷縮は糸作りから仕上げまですべて手作業で行うため量産できません。
一般的に安価に出回っている物は、小千谷縮に似せて機械で織った物です。

角出し

現在、角出しと言えば紬や小紋に合わせるカジュアルな名古屋帯の結び方を指し、粋な結び方として人気があります。

実は、角出しは、現在主流のお太鼓結びよりも古くからあった結び方です。
ただ、昔の角出しは現在の物とは少し結び方が違っていました。
共通するのは、お太鼓に相当する部分の両端から帯の先が出る形であることで、出ている部分を「角」と表現して「角出し」と呼んでいます。

現在は帯締めと帯揚げを使って角出しを作りますが、昔は帯を完全には結びきらず、たれの先を帯の下に残したまま、中途半端に引き抜いて輪になった状態の帯を下げていました。
この結び方なら、帯締めも帯枕も必要ありませんが、現在の名古屋帯では短すぎ、袋帯では長すぎます。
お太鼓結び用に名古屋帯と袋帯が普及すると、これらの帯でできるように角出しも変化しました。
その結果、昔の角出しに適した長さの帯は廃れてしまったようです。

角出しに似た帯結びで銀座結びという結び方もありますが、「名古屋帯の角出し」と「銀座結び」の違いは明確ではなく、人によって意見が異なっているのが現状です。

浴衣の選び方

浴衣を購入しようと考えた場合、オーダーメイドと既製品という二つの選択肢があります。

予算と時間に余裕があるなら、呉服店で相談しながら自分に似合う反物で仕立ててもらうのが一番です。
しかし最近では、すぐに着られて安い既製品が主流になっています。

既製品から選ぶ場合に気をつけなくてはいけないのは、サイズ選びです。
一番多くの種類が出回っている、いわゆるフリーサイズの浴衣は、身長160cmくらいの人向きで、さらに少し余裕を持たせたサイズになっています。
浴衣は、どちらかというと裄も丈も短めの方が格好良く見えるので、実は背が高めの人、ややぽっちゃり型の人の方がサイズで困ることは少ないと思います。

逆に、背が低めの人や痩せ形の人の場合、大きすぎることがしばしばあります。
Sサイズを展開しているブランドもありますが、フリーサイズしかない場合、オーダーメイドも扱っているショップであれば、小さくする加工を引き受けてくれることもあります。
相談してみましょう。