たとう紙

着物をしまう時に、大きな紙に包んでタンスに入れますが、この紙のことを「たとう紙」と言います。
たとう紙は和紙でできており、通気性が良く、着物から余分な湿気を吸って放出するのでカビを防ぐとされています。
同じ紙でも、和紙以外の紙は通気性が悪く水分を貯めやすいので、着物を包むのには向きません。

一方で、たとう紙に包むと逆に虫が付きやすくなるという説もあり、湿度の調整に優れた桐のタンスにしまうのであれば、たとう紙に包まない方が良いと主張する人もいます。
とはいえ、出し入れする時のことを考えると、たとう紙に包んだ方が扱いやすいでしょう。

一般的に、新しく着物を購入したり洗濯や加工に出したりすると、着物が新しいたとう紙に入れられて届けられます。
このたとう紙を使えば、とりあえず用は足ります。
なお、着物の型崩れを防ぐために厚紙が入れられていることもありますが、これは和紙ではなく水分を吸いやすい紙なので、すぐに抜いてください。カビの原因になります。

丸洗いと洗い張り

着物の洗濯方法には、丸洗いと洗い張りという2種類の洗い方があります。

丸洗いは、洋服で言うところのドライクリーニングで、特別な薬剤を使って着物をそのまま洗います。
汗など水溶性の汚れが落ちにくいのが難点ですが、比較的短時間で安く汚れを落とせます。
通常、着物を洗いに出すと言えば、丸洗いのことです。

洗い張りは伝統的な洗濯の方法で、いったん着物をほどいてから水洗いをし、再度仕立て直します。
水洗いをした生地を板に張って乾かすことから、洗い張りと呼ばれます。
ほどいて仕立て直すために時間がかかり、費用も高くなりますが、丸洗いでは落ちない汚れも落ちます。
大切な着物の場合、丸洗いをしても薄汚れた感じが取れなくなってきたら、洗い張りを検討した方が良いでしょう。

昭和の初め頃までは各家庭で洗い張りをする習慣があり、自分たちで着物をほどいて縫い直していました。
現在では家庭で洗い張りをすることはほとんどなくなりましたが、当時覚えた技術によって、今でも着物を縫い直せるという人は意外に多くいます。

絽と紗

夏の着物には、絽と紗の2種類があります。
どちらも「透け感のある生地」なのですが、よく見ると、絽の方は等間隔に線が入っているように見えます。
紗には、そのような線はなく、全体が均等に透けているように見えます。

絽に入っている線は、隙間が空いている部分とそうでない部分が交互に現れるためにできるのですが、隙間が空いている部分のことを「絽目」と言います。
横方向に絽目が入っていると横絽、縦方向に入っていると堅絽(たてろ)と呼びます。

歴史的には紗の方が古く、織り方も簡単ですが、隙間が多すぎて柄をきれいに入れるのが難しいという問題がありました。
そこで、江戸時代の頃に改良版として絽が生まれたとされています。
絽の方が色柄がきれいに出て、むやみに透けないため、現在の夏着物の多くは絽です。
しかし、紗の方が涼しく、独特の優しい風合いもあることから愛好者も少なくありません。

また、紗は「紗袷」と言って2枚重ねにして仕立てることもあります。
あまり一般的な物ではないので、紗袷を着ている人はかなりの着物好きであることがうかがえます。

八寸名古屋と九寸名古屋

名古屋帯には、八寸名古屋帯と九寸名古屋帯の2種類があります。

八寸名古屋帯は、幅が八寸(約30センチ)の帯地を使い、たれの部分だけ折り返してかがった帯です。
胴に巻く部分は帯地そのままで、帯芯も入れません。
帯芯を入れないため帯地自体が硬く、できあがった帯は軽いのが特徴です。

九寸名古屋帯は、幅が九寸(約34センチ)の帯地を使い、両端を中に折り込んで仕立てた帯です。
胴の部分を二つ折りにする場合と、開いたまま裏地を付ける場合がありますが、どちらにしても帯芯を入れます。
帯地は薄く柔らかですが、帯芯が入るため、できあがった帯は重く、厚みが出ます。
八寸名古屋帯のような帯地の制限がないため、現在の名古屋帯の多くは九寸帯です。

八寸の方が簡単に仕立てられること、九寸の方が重厚な仕上がりになることから、八寸の方がカジュアルとされていますが、豪華な八寸名古屋帯も軽快な九寸名古屋帯もあるので、一概にどちらが格上とは言えません。
どちらも同じ名古屋帯として扱ってよい物です。

襲(かさね)

襲とは、重ねて着る着物のことや、着物を重ねて着ることを言いますが、襲の色の組み合わせのことも言います。
正しくは「襲の色目(かさねのいろめ)」と言い、その省略形です。
たとえば「黄柳の襲(きやなぎのかさね)」とは、表に近い方が薄い黄色、下の方が緑の組み合わせです。
必ずしも上の着物と下の着物の色を指すわけではなく、表地と裏地のこともあります。

襲の色目の概念が生まれ、色の組み合わせにそれぞれ名前が付いて定着したのは平安時代とされています。
ただし、これを総称して「襲の色目」と呼ぶようになったのはもっと最近で、江戸時代の頃ではないかと言われています。

日常生活の中で普通に出てくる表現ではありませんが、着物と八掛などの色を組み合わせる時に襲の色目を意識する人はいます。
また、結婚式で花嫁さんが十二単を着るような時には、伝統に従った襲の色目に従うことが多いようです。

最近では、伝統的な襲の色目とは別に、きれいな配色に名前を付けて襲と呼ぶこともあります。

色の和名

日本語には色を表す言葉が多くあり、たとえば、赤色の中にも緋色、茜色、臙脂色などがあります。
このような和名で色を表現するとカッコいいという風潮もあるのですが、そのような印象の問題だけでなく、言葉では伝えにくい色をできるだけ正確に伝えるためにも役立ちます。
色見本が使われていなかった時代には着物の色を決めるのに役立っていたという説があり、現在でも、ネット通販で着物を販売しているショップでは、ディスプレイ上で色が変わってしまうことを考慮して色の和名を併記しているところが多くあります。

和名のうち一部は「慣用色名」として日本工業規格(JIS)で規定されています。
また、それとは別に、日本で色に関する様々なガイドラインを定めている日本色彩研究所という団体が伝統色という名前で選定している色もあります。

たとえば、前述の緋色はJISでは規定されていませんが、代わりに紅緋が「あざやかな黄みの赤」と規定されていて、茜色は「こい赤」、臙脂色は「強い赤」と規定されています。

伊達衿

伊達衿は重ね衿とも呼ばれ、半衿と着物の衿の間に置く飾り衿のことです。
主に礼装の時に使われますが、最近は単なる飾りとして、カジュアルな着物に合わせることもあります。

元々、格式の高い着物は何枚も重ねて着ていたのですが、それが簡略化され、あたかも重ねて着ているかのように見せるために伊達衿を使います。
色や素材に特に決まりはなく、着る人の好みで選びます。
どのくらいの幅を見せるかにも特に決まりはありませんが、1~2ミリくらいにすることが多いようです。

なお、礼装だからと言って必ずしなければいけない物ではありません。
半衿を豪華にして伊達衿はしないという人や、すっきりした着方が好きだからという理由で伊達衿をしない人も大勢います。

ただの布なので、知らないとどうやって留めるのか悩んでしまいますが、クリップのような物で着物の衿に留めたり、半衿に縫い付けたりするのが一般的です。
この際、着るときに胸元で出し方を調整できるよう、首の後ろから肩の辺りまでだけを留めます。

子供の着物

子供の着物も、基本的には大人の着物と同じ形です。
ただし、大人の着物と同じ作り方をすると無駄な布がたくさん出てしまうので、裁断の仕方を工夫しています。
この裁断方法の違いによって「一つ身」「四つ身」という子供用の特別な着物ができます。
これに対して大人用の着物を「本裁ち」と言います。

子供は成長が速いので、一つ身や四つ身でも大きめに作り、肩の部分と腰の部分で縫い縮めて着ます。
この縫い縮める部分や縫い縮めることを「肩揚げ」「腰揚げ」と言います。
着物が小さくなるたびに肩揚げと腰揚げを少しずつ出して行くと、仕立て直さなくてもちょうどよいサイズで着ることができます。

一般的には、3歳くらいまでは一つ身、3歳から10歳くらいまでは四つ身、10歳くらいからは肩揚げと腰揚げをした本裁ちを着て、13歳以降は肩揚げと腰揚げもなくします。

最近の七五三で3歳の子が着物の上に着ている物を被布(ひふ)と言いますが、要するにコートのことです。
必ず着なくてはいけない物ではありませんが、被布で帯部分を隠すことで重い帯が不要になり、子供への負担が軽くなるため、現在では被布を着る方が主流になっています。

背中心と脇縫い

着物を作るときや着る時に、背中心、脇縫いという言葉がよく使われます。

背中心は、着た時に背中の上から下まで一直線に通る縫い目のことです。
この縫い目が背中の中央で真っ直ぐになっていると、きれいに見えます。
サイズが合っていない場合、腰より下の背中心は中央に来ませんが、これは構いません。
この場合でも、背中心が斜めにならないように注意しましょう。

脇縫いは洋服でも使われる言葉で、前身頃と後ろ身頃を縫い合わせた部分のことです。
脇縫いも、腰より上は着る人の脇に合わせますが、腰より下の脇縫いが前後にずれるのは構いません。

反物から着物を作るとき、布幅が多少は余るのですが、余った分は脇縫いの縫い代として隠しておきます。
そのため、小さな着物でも、脇縫いをほどいて縫い直すことで幅を広くできることがあります。
同じようにして、逆に大きな着物を縮めることもできます。
本格的な着物を直すのは難しいのですが、浴衣くらいなら自分で直すという人も結構いるようです。

着物を自分で作るには

着物や帯を作る技術を和裁と呼び、洋服や小物を作る洋裁と区別することがあります。
和裁と洋裁では使う道具が異なりますが、最も大きな違いは、和裁ではミシンを使わないことにあります。
着物は何度もほどいて仕立て直す習慣があるため、針穴が残るミシン縫いは今でも敬遠されています。
ただし、浴衣など仕立て直すほど使い続けない着物は、コストダウンのためにミシンで縫うことがほとんどです。

自分で着物を縫う場合、手縫いは大変ですので、仕立て直さないことを前提にミシンで縫ってしまって構いません。
本来は型紙類を使わず、計算で割り出した位置に印を付けて裁断していくのですが、そのためには和裁の知識が必要です。
現在は浴衣の型紙も売られていますので、これを使えば洋裁の知識と技術だけで浴衣や単衣の着物を作れます。

型紙によって作り方が多少異なりますが、基本的にはすべて直線縫いで、ボタンなどの付属物も付かないため見た目よりは簡単だと思います。
衿周りだけ少し難しいのですが、ここがきれいにできていると完成度がグッと上がるので頑張りましょう。