直垂(ひたたれ)

直垂とは、鎌倉時代以降に主に武家の男性が着ていた衣服です。
上着は現在の着物の上半身に近い形で、下は袴です。
この形状は、古墳時代の遺跡から見つかっている男性型の埴輪の服装とよく似ている一方、平安時代の貴族階級を描いた資料には残っていないため、庶民の服として伝わっていた物を改良して武家が採用したのではないかと言われています。

平安時代まで、男性の礼装は中国から渡ってきた服を基にした束帯でした。
束帯と直垂の大きな違いは、襟の形と、前の打ち合わせにあります。
束帯は、前中心で打ち合わせるのではなくやや横に合わせ目が現れ、襟が立っています。

元々、束帯やその簡略形の衣冠などは、重厚で格式高い雰囲気がある一方、着るのにも手間と時間がかかり、動きにくく、とても機能的な服装ではありませんでした。
そのため、社会の中心が貴族から武家に移った後、武家の好みに合わせて服装の主流が変化したと考えられています。

現在は、伝統芸能の衣装として使われていますが、日常着として着られることはほとんどありません。

文庫結び

文庫結びは、最も基本的な半幅帯の結び方ですが、袋帯の基本の結び方でもあります。
半幅帯や袋帯の変わり結びは数多くありますが、その多くは文庫結びからの派生系と言えます。
浴衣用の作り帯として売られている物は、ほとんどが文庫結びの形に仕上げられています。

現在ではお太鼓結びの方が一般的になっていますが、歴史は文庫結びの方が古く、1700年代の後半くらいに始まったと言われています。(お太鼓結びは1800年代に入ってから)
江戸時代、女性の帯の結び方には特に決まりがなく、それぞれの好みに合わせて自由に結んでいたようですが、武家の女性に関しては多くが文庫結びをしていたとされています。
おそらく、庶民が愛好していた垂れを下げた形よりも、垂れを帯の中にしまってきちんと整えた文庫の方が、武家の美意識に合っていたのでしょう。

文庫結びは若い女性の結び方だと言う人もいますが、見た目が可愛らしいためにそう思われているだけで、年齢に関係なく結んでよい結び方です。

プロが行う着物の加工

一般の人が着物を手直ししようとしても限界があります。
一方、着物のプロは、そのままでは着用できない着物でも様々な方法で直してくれます。
どのような加工を依頼できるか、いくつかの例を紹介しましょう。

着丈が足りなくて足が出てしまう着物は、帯で隠れる部分に別布を足して伸ばします。
逆に、着丈が長すぎておはしょりが多くなりすぎる着物は、裾を切って短くします。

裄の長さは、袖付けをほどいて袖幅を調整してから付け直します。
身頃の幅(身幅)は、脇をほどいて縫い直すことで調整します。

日に当たるなどして色があせた着物は染め直します。
大きなシミができてシミ抜きをしても取れない場合は、染め直すこともありますが、シミの上から絵を描いて隠してしまうこともあります。
条件によっては、目立つ場所に汚れが付いた場合、目立たない場所の生地と入れ替えてしまうこともあります。

それなりに費用と時間はかかりますが、特に思い入れのある着物や貴重な素材の着物の場合は、このように直すことも検討すると良いでしょう。

裃(かみしも)

裃とは、江戸時代に生まれた武士の正装です。
比較的最近の服装なので、現在でも伝統芸能や儀式の衣装としてよく見られます。

裃は、ベストのような物(肩衣、かたぎぬ)と袴の組み合わせで、小袖(着物)の上に着ます。
肩幅が広く袖無しで、前を合わせないのが特徴です。
時代劇の影響から、袴の裾を引きずって歩くものというイメージがありますが、このような裃は「長裃」と言い、武士の礼装です。
一般的には足首くらいまでの袴を穿いており、こちらは「半裃」と呼ばれます。
半裃は武士の略礼装で、庶民の礼装だったと言われています。

裃の起源は定かでありませんが、昔からあった前開きの上着が室町時代に「直垂」(ひたたれ)として確立された後、室町時代の中期以降に直垂の袖を切って着られるようになったのが始まりではないかと言われています。

その後、明治維新を経て様々な法令が出されることとなりましたが、その中で、公の場での礼服として裃を着てはならないという通達があり、男性の正装は羽織袴に変わりました。

狩衣(かりぎぬ)

狩衣とは、平安時代から着られるようになったと考えられている、身分の高い男性の普段着です。
名前のとおり、元々は貴族が狩りに行くときに着る服でしたが、それ以前から経済的に豊かな庶民が着ていたとも言われています。
また、この頃の礼装である束帯に比べるとはるかに動きやすく軽いため、スポーツウェアのような位置付けから日常着になり、江戸時代になると略礼服として着られることもあったようです。
現在では、神主の正装としてよく見られます。

狩りの服として使われていた平安時代初期には麻で作られていましたが、貴族の日常着となった平安時代中期から、絹で作られるようになったと考えられています。

狩衣を着る際には、まず下着である白小袖を着てから、一般的な着物である小袖を重ね、その上に袴を穿き、立襟の上着を着ます。
正確には、この上着のことを狩衣と言い、袴などを含めた着姿は「狩衣姿」と言います。
狩衣の両脇は開いていて、当帯という共布の帯で留めます。
なお、現在の神官の服装として着る場合、白小袖の上の小袖は省略されることもあるようです。

足袋

現在、着物を着るときには当たり前のように足袋を履いていますが、実は、足袋の歴史はそれほど古くありません。

足袋は洋装用の靴下類と異なり、伸縮性のあまりない生地で作られているため、足首部分が開いていて、これを「こはぜ」という金具で留めます。
「こはぜ」は、袋物の留め具などとして江戸時代には使われていたようですが、足袋に使われるようになったのは江戸時代の後期からではないかと言われています。
それまでは、足袋の履き口は紐で留めていたようです。

足袋の原型とされているのは平安時代の「しとうず」という物で、正装の際に靴擦れを防ぐために履いていました。
一方庶民は、狩りに行く時などに足を保護する必要があったため、革で足袋に似た形状の履物を作って履いていました。
室町時代以降、武家が「しとうず」ではなく革の足袋を履くようになり、以後江戸時代まで、足袋は革で作る物でした。

江戸時代に入ると革が不足するようになり(不足した理由には諸説あります)、足袋に木綿が使われるようになります。
これ以降、たとえば正式な場所では白い足袋を履くなどのしきたりが生まれ、定着しました。

着物から何にリメイクできるか

着物の生地から様々な物を作ることができますが、着物特有の問題として「洗濯ができない」という問題があります。
(木綿、ポリエステルの着物は除きます)
先染めの着物であれば中性洗剤で手洗いすることもできますが、後染めの着物は、布の上に絵を描いているような物なので、水に浸すと確実に色落ちします。
また、ちりめんなどシボがある布は水に浸けると縮んでしまいます。
物によりますが、半分くらいに縮んだ例もあるそうです。

そのため、基本的には洗濯をしないで使うバッグやインテリア雑貨を作ることが多いようです。
洋服にする場合は、仕立てる前に洗い張りをしてもらい、リメイク後はドライクリーニングに出すようにします。

日本で古くから作られていたリメイク品の定番としては、布団や座布団があります。
布団は水洗いしないので着物からリメイクするのに適していますし、作るのも簡単です。
アロハシャツも定番ですが、水洗いできないため、普段着ではなく特別な時に着る服として扱われることが多いようです。
最近は、ドレスへのリメイクもよく行われます。

打掛(うちかけ)

打掛とは、女性が着物の一番上に着る物です。
一般的には豪華で、裾に綿を入れて厚みを出しています。
この綿は、より豪華に見せる効果があると同時に、裾がまくれたり足にまとわり付くのを防ぐ効果もあります。

現在は婚礼衣装として一般的ですが、元々は室町時代の武家の礼装でした。
この頃になると重ね着をする習慣が廃れてきましたが、礼装として小袖の上にもう一枚小袖を「打ち掛ける」着方をするようになり、これが「打掛」という言葉の語源になっています。
この頃の打掛を特に「打掛小袖」と言うこともあります。

庶民が婚礼衣装として打掛を着るようになったのは、江戸時代の後期からだと言われています。
しかし、それ以前から、庶民の女性が儀式の場で打掛を着ることはたまにあったようです。

なお、現代の打掛は夏用の物もありますが、本来は秋から春の物でした。
そのため非常に暑く、室町時代の礼装として夏に着る時には、打掛を紐で腰に結び付け、上半身は着ないという姿が礼装として認められていました。
この姿を「腰巻」と呼びます。

陣羽織

陣羽織とは、武士が鎧の上に着ていた上着のことです。

元々は、鎧が軽量化されたことで防寒、防雨のための上着が必要になり、その必要性から生まれたのが陣羽織だとされています。
その後、所属を明らかにしたり、自分たちの活躍を目立たせたいなどの理由から、陣羽織に派手な装飾を施す人々も現れました。

陣羽織が生まれたのは室町時代の中頃と言われており、一方、現在の羽織に似た形状の上着はそれより前の鎌倉時代からあったとされているため、初期の陣羽織は羽織と同様に袖があったと考えられます。
しかし、戦う際には袖がない方が動きやすいために袖を外し、さらに腰に差した刀が邪魔にならないよう背中の裾を開き、やがてこの形が主流となりました。

現在では祭りや七五三の衣装に使われたり、端午の節句に飾る人形に着せたりする程度ですが、これらで使う陣羽織はほとんどが袖なしです。
これは、時代が新しくなるに従って袖なしの陣羽織が主流になり、陣羽織と言えば袖なしというイメージが定着したためと考えられます。

リメイク用に布を準備する方法

着物からのリメイクを行う場合、ほどいて広い布として使う場合と、欲しい部分を直接切り取って使う場合があります。
木綿やポリエステルの着物や、先染めの着物はほどいてから裁ち目をかがって洗うとさっぱりしますが、すべてが洗えるわけではないので、小さな部分で試してからにしてください。
掛衿部分が使いやすいと思います。

後染めの正絹の着物は、色が落ちるので絶対に水洗いはしないでください。
汗臭いなど、どうしても洗いたい場合は、着物の状態のまま洗い張りに出すと良いです。

着物をほどく場合、決まった手順はないので、ほどきやすそうな所からほどけば大丈夫です。
縫い始めや縫い終わりの部分が頑丈に留まっていることがあるので、ここを無理に引っ張らないようにだけ注意してください。
ほどきにくい部分は慎重に糸を切ります。

きれいな部分だけを切り出してパッチワークなどに使いたい場合は、直接切ってしまうこともできます。
一旦ほどいた方が扱いやすいのですが、傷みがひどく使える部分が少ない場合は、直接切った方が簡単だと思います。