紅絹(もみ)

紅絹とは、赤い絹の生地の一種です。
本来は、平織りの絹の生地をウコンで染めてから、さらに紅花で染めた物を言い、非常に鮮やかな赤色が特徴です。
ウコンも紅花も薬草であるためか、健康に良いという言い伝えがあり、女性の着物の裏地や襦袢によく使われてきました。

しかし、紅絹は色移りが激しいという欠点があります。
裏地から着物の表地に色が染み出したり、襦袢から着物の裏地に色が移ることがよくありました。
さらに、価格や手間の問題から天然染料があまり使われなくなったこともあり、本来の意味での紅絹は、現在ほとんど生産されていません。

現在作られている紅絹は、化学染料で色を再現した物です。
色移りの心配がなく扱いは楽ですが、本来の紅絹を知っている人が見ると、やはり若干の違いはあります。

新しく作られることはほとんどありませんが、古い着物の一部として、本来の紅絹はまだ流通しています。
知らずに手荒な扱いをすると色が移ってしまいますので、鮮やかな赤の裏地や襦袢を見つけたら、念のため詳しい人に見てもらうと安心です。

襦袢

襦袢は着物の下に着る一種の下着ですが、着物姿の土台になる重要な存在です。
礼装用には白の襦袢を使うのが習慣ですが、それ以外には特に決まりはありません。

襦袢の本来の役割は、着物に汗などの汚れが付かないようにすることです。
そのため、着物の大きさにできるだけ近く、はみ出さないギリギリの大きさであることが求められます。

標準サイズで作られている既製品や、自分のサイズで仕立てられている着物だけを着ている人であれば、1着の襦袢を使い回せます。
しかし、貰った着物やリサイクル品を着る人の場合、着ようとする着物の袖幅や袖丈に合わせて襦袢を選ばなくてはなりません。
この問題を解決するために、最近では、襦袢の袖を簡単に付け替えられるようにした物が出回っています。

襦袢のもう一つの役割は、衿周りの形を整えて維持することです。
そのために半衿を付け、衿芯を通します。

襦袢の素材としては、昔は絹が一般的でしたが、今では洗濯しやすいように、身頃に木綿、裾と袖にポリエステルを使った物が主流です。

胴裏

胴裏は着物の裏地の一種で、体に近い部分に使います。
胴裏の周りに八掛が付くイメージです。

表から見える八掛に対して、胴裏は見えないので、見た目ではなく機能性が重視されます。
一般的には、柔らかく滑りが良い絹の羽二重という生地が使われますが、ポリエステルの着物にはポリエステルの胴裏を使わないと、せっかくの「水洗いができる」という特徴を生かせません。
また、紬や気軽な小紋などでは、安価で丈夫な木綿の胴裏が使われることもあります。
色は白が基本ですが、「見えないお洒落」と称して、色や柄の付いた胴裏を使うこともあります。

古い着物では、胴裏がまだらに変色していることがあります。
これは胴裏に使われている昔の糊が変色したもので、元には戻りません。
現在では糊の品質が良くなったため、新しい胴裏でこの現象が出ることはほとんどありません。ご安心ください。
カビと違ってすぐに広がることはありませんが、変色するような糊に表地を密着させて保管するのは、やはり心配です。
大事な着物の場合は、胴裏だけ交換してもらうことをお勧めします。

八掛

八掛とは着物の裏地の一種で、袷着物の縁に近い部分に使います。
洋服とは違い、裏地である八掛の方が少しだけ外に出て、表から見えるようになっています。
これは、擦れやすい縁を保護するためで、裾や袖口は先に八掛が傷むようになっています。
傷んだ八掛は専門店で付け替えてもらうことができます。

八掛には、八掛用の汎用的な布を使う場合、共布を使う場合、表地に合わせて特に作った布を使う場合があります。
礼装には共布を使う習慣があり、それ以外では共布と別布のどちらも使われます。

また、全体が一色の物と、白に向かってグラデーションになっている物があり、グラデーションになっている物は「ぼかし八掛」と呼ばれます。
これは、表地の色が薄い場合に、八掛と胴裏の境目が表に映ってしまうことを防ぐために作られた物です。
どちらを使うかは好みの問題で、決まりはありません。

八掛の色は着物の印象を左右するため、傷んでいなくても、飽きてしまった着物の八掛だけを付け替えることもよくあります。

着物の歴史

現在の着物の原型ができたのは江戸時代だと言われています。
有名な十二単(じゅうにひとえ)は、もっと古い時代の物です。
十二単と現在の着物を比較すると、だいぶ違っていることがわかります。

江戸時代の後期は平穏な時代で、この頃にさまざまな文化が発展したことが知られています。
着物文化もこの時に発展し、確立したと考えられています。

明治時代には西洋の文化が流入し、洋服が着られるようになってきました。
それでも、庶民にとっては和服の方が一般的で、江戸時代に生まれた着物文化が定着した時代と言えます。

大正時代は「はいからさんが通る」で描かれた時代です。
着物にも西洋文化の影響が現れ、とても華やかな物が作られました。
人気のあるアンティーク着物は、一般的にはこの時代の物です。

洋服が普及し、和服が特別な機会にしか着られなくなったのは、実は昭和の後半のことで、それほど古い話ではありません。
一度は廃れるかに思われた着物文化でしたが、ファッションの一つとして見直され、最近はまた着る人が増えてきています。

少し変わった着物の楽しみ方

長く使える着物や帯も、やがて着用には適さないほど汚れたり傷んだりしてきます。
また、生活習慣が変わったため、せっかくたくさんの着物を受け継いでも持て余してしまうことがあります。

綺麗だけれどもサイズが小さすぎて着ることができないというような着物は、インテリア用品として使われることがあります。
袖に棒を通してタペストリーとして飾ると簡単です。

飾る場所がなかったり、飾るほどではないという場合は、リメイク素材に使えます。
着物を切ってしまうことに抵抗を感じる人も多いと思いますが、昔から、古い着物はリメイクを重ねて最後まで無駄なく使う習慣がありました。
着ないまましまいこむよりは、現代風の物にリメイクして大切に使う方が、着物にとって良いことかもしれません。

状態が良い物は、ほどいてから洋服に仕立て直すことができます。
傷んだ部分が多い場合は、綺麗な部分だけ切り取って、パッチワークの素材に使うことが多いようです。
ある程度広い部分が使える場合は、バッグやポーチ、クッションなども作れます。

男の着物

着物に関する情報を調べようとすると、ほとんどは女性用の着物の話になります。
男性が着物のようなファッション分野に関心を持つのは「男らしくない」とされていたためかと思いますが、もちろん、男性用の着物はありますし、愛好者も大勢います。

男性の着物姿は、落語家の衣装がお手本になるでしょう。
襲名披露などで見られる五つ紋付きの羽織と袴が礼装です。
もっと気軽な公演では、正装からカジュアルまでさまざまな着物を見ることができます。

男性用と女性用の最大の違いは、男性用には「おはしょり」がないことです。
おはしょりを整えなくて済むため、男性用の着物はとても簡単に着ることができます。
帯も女性用より細く、貝の口や一文字など、あまり結び目が大きくならない結び方をします。

男性の着物はシンプルなので、羽織の裏地(羽裏=はうら)や襦袢に趣向を凝らした柄を入れるという習慣があります。
女性用の羽裏や襦袢にも派手な物はありますが、男性用はさらに迫力のある物が多く、コレクターもいるほどです。

着物を着たときに注意したいこと

初めて着物を着せてもらうと、どうやって歩いたらよいのかわからなくなることがあります。
足をすっぽりと包まれてしまい、踏み出しにくくなるためですが、歩いているうちに着物が体に馴染み、動きやすくなりますから安心してください。

とは言え、大きな歩幅で歩くと着物の裾がめくれてしまうので、普段よりは少し狭い歩幅で歩くように心がけるとよいでしょう。

風の強い日や階段を上り下りする時など、着物の前の部分(上前=うわまえ)がめくれて裏地が見えてしまうことがあります。
多少は「そういうもの」ですが、気になる場合は右手で軽く押さえます。
そのためにも、右手に大きな荷物は持たない方がよいでしょう。

着慣れていないと、袖の長さのことを忘れてしまいがちです。
物を取るときに袖を引っかけないように注意してください。
また、狭い場所で、帯を人や物にぶつけてしまうことがたまにあります。
これが原因で帯を汚してしまうこともあるので気をつけましょう。

お手入れの仕方

着物を脱いだら、着物ハンガーに掛けて陰干しします。
洋服用のハンガーは肩の形が合わないので使わないでください。
型崩れの原因になります。

陰干しする理由は、着ている間にこもった湿気を取るためなので、ほんの数時間で十分です。
あまり長く吊していると、表地と裏地がずれてくることがありますし、光による色あせの原因にもなります。
湿気が取れたら早めに畳んでしまいましょう。

陰干ししている間に埃を落とします。
柔らかい布で軽く払うか、柔らかいブラシを使ってください。

昔は、ベンジンで衿を拭くように言われていましたが、たまに着る程度なら、それほど汚れないでしょう。
失敗すると着物を傷めますので、リスクと効果を考えるとお勧めできません。

クリーニングは専門の業者に依頼します。
呉服店に相談すれば紹介してもらえるでしょう。
クリーニングに出す頻度は、着た回数などによって異なりますが、洋服の場合に比べるとずっと頻度が低いと考えてください。
着物は洗うたびに傷む物です。

浴衣の特徴

浴衣と着物の最大の違いは、襦袢を着るかどうかです。
襦袢を着ないために、浴衣は略式とされ、改まった席に着て行くのは失礼と考えられています。

また、足袋を履きません。
足袋を履かないので、草履ではなく下駄を履きます。
ただし、履き慣れない人が素足で下駄を履くと足が痛くなることがあるので、薄手の足袋を履いても構いません。

さらに、帯も薄い物にしないと釣り合いが取れません。
そのため、一枚仕立ての半幅帯を使います。
袷仕立ての半幅帯でもよいですが、厚みがあると釣り合わないので、薄手の物にします。
最近はリバーシブルの帯が人気なので、むしろ袷仕立ての方が多く使われているようにも見えます。

半幅帯なので、帯枕、帯揚げ、帯締めが不要になります。
帯板は、入れた方が綺麗だから使うという人も、なくても十分だから使わないという人もいます。
好みで決めて構いません。

準備する物が少なくて済み、着付けも簡単になるので、独学で着付けを覚えたい場合は浴衣から始めるとよいでしょう。