縮緬(ちりめん)

縮緬は、全体に細かい凹凸がある絹織物です。着物だけでなく、半衿、帯揚げにもよく使われます。
さらには風呂敷や手芸用の素材としても好まれており、とても人気のある着物生地です。
本来は絹で作りますが、最近は化学繊維の物も多く出回っています。

布表面の凹凸のことをシボと言い、大きなシボがある縮緬は古代縮緬、鬼縮緬と呼ばれます。
よく知られている一越(ひとこし)縮緬は、シボの小さな縮緬の代表例です。

縮緬は、経糸に撚りのない糸、緯糸に強い撚りをかけた糸(強撚糸)を使って織られており、織り上がった布を精錬(糸表面の油分などを取り除くこと)すると緯糸の撚りが戻り、シボが出ます。
一越縮緬は右撚りの強撚糸と左撚りの強撚糸を一本ずつ入れていくので、数字の一を入れて「一越」と呼ばれます。
これに対して鬼縮緬は、右撚りを二本、左撚りを二本というように入れていくので「二越」とも呼ばれます。

精錬されていない糸は綺麗に染まりません。
縮緬は織ってから精錬されるため、染めるのも織った後になり、後染めの着物になります。

おはしょり

「おはしょり」とは、着物の丈の余った分を帯の下で折り返した部分のことで、女性の着物の特徴となっています。
おはしょりを作らない着方を「対丈」(ついたけ)と言い、男性や子供は対丈で着物を着ます。

歴史的に見ると、江戸時代の初期までは女性も対丈で、おはしょりはありませんでした。
その後、着物が長くなり「おひきずり」と呼ばれる着方が生まれますが、引きずったまま外に出ると着物が汚れるので、裾をたくしあげたのが始まりではないかと言われています。

実用的な面から見ると、直線的な着物を曲線的な体に当てるためには若干の余裕が必要で、その余裕分がおはしょりであるとされています。
おそらく、流行によって生まれた「おはしょり」が実用面でも利点があったために定着したのでしょう。

現在では美しく見せるためのパーツという意味合いが強くなり、おはしょりはできるだけ薄く平らで、床と並行で、5センチから10センチくらいの長さにするのが良いとされています。

新年会の着物

以前、着付け教室主宰の新年会に誘われてお邪魔したことがあるのですが、その時の写真が出てきました。
いい感じにお酒が入った後なので、ちょっと見苦しい所もありますがご容赦を。
会場はホテルの宴会場。百人以上が着物で集まり、楽しく飲食して親睦を深めるという趣旨のイベントです。

照明が黄色っぽいために色が少し変わってしまっていますが、この時の着物は「朱鷺色(ときいろ)に霰散らしの小紋」、「金地の袋帯」、「綸子の帯揚げ」、「丸組の帯締め」で、帯揚げと帯締めはお揃いの若草色です。また、薄桃色に刺繍の半衿を合わせています。
着物が訪問着だったら結婚式にも行けそうですが、小紋なので「遊びに来ました」という気軽さになっています。
小紋には通常名古屋帯を合わせますが、「新年会だから華やかな方がいいわよ」というアドバイスを受けて袋帯にしました。
この帯は数十年前に流行したタイプの正装用ですが、帯芯が入っていないので、薄く軽快になっています。

着物と帯の組み合わせ方

着物と帯のコーディネートは楽しみの一つなのですが、初心者にとっては難しいことです。
洋装では難しい「柄×柄」が基本になるため、戸惑ってしまうのだと思います。

洋装では全体を同じ系統でまとめると落ち着きますが、和装の場合、着物と帯を似た感じにするとメリハリがなくぼやけた印象になりがちです。
大きな柄の着物には細かい柄の帯、明るい色の着物には落ち着いた色の帯というように、あえて対照的にする方が綺麗に見えます。
同系にする場合は、帯揚げや帯締めを反対色にしたり、大きめな帯留めを使ったりしてアクセントを付けるとよいでしょう。

また、呉服店などではよく「着物の柄の一色を帯のメインの色にする」ことを勧められます。
たとえば、紺地に黄色の花が描かれた着物には、黄色の帯を合わせると良いそうです。
この考え方は、帯揚げや帯締めを選ぶときにも使えます。
この例の場合、全く違う赤の帯を合わせても、黄色の帯揚げと帯締めを合わせると、全体的にうまくまとまります。

小さすぎる着物を着るには

裄が短い場合は、衣紋を多めに抜くと意外に伸びます。
なお、着物の袖は洋服よりも短く、手首が出るくらいでちょうどいい長さです。

丈が短すぎる場合は、細めの腰紐を使い、締める位置をできるだけ低くしてみます。
腰骨の上を通るくらいでおはしょりが出せるようなら、この位置で着るとよいでしょう。
この状態で腰紐が見えてしまうようでしたら、おはしょりを出さない「対丈」(ついたけ)で着る方法もあります。
正式な着方ではありませんが、サイズが小さいことの多いアンティーク着物の愛好者の間ではよくある着方です。

身幅が足りない場合は、上前(左側の身頃)が体の前で左右均等になるように合わせて、下前(右側の身頃)をできるだけ巻き込みます。
左の脇縫いと上前の端が前に来てしまいますが、構いません。
なお、上前と下前が少なくとも20センチくらいは重なっていないと、前がはだけてしまいます。これより短い場合は寸法直しを頼んだ方がよいでしょう。

大きすぎる着物を着るには

着物の裄が大きすぎて手がすっぽり隠れてしまうような場合は、着付けで対処するのは困難です。
少し手に被るくらいなら、胴の部分をきっちりと整えることで数センチは短くなります。
まず後ろ身頃を身八ツ口部分で左右に引き、次に前身頃を脇に向かってなでつけて皺を取り、前から後ろにたたんで伊達締めで押さえます。

丈が長すぎる場合は、腰紐の位置を高くします。
もし、ウエストまで上げてもまだおはしょりが多くなりすぎるようなら、おはしょりの下部分が適切な位置に来るよう持ち上げて、その状態でもう一本腰紐を締めて押さえます。
だぶついた部分は伊達締めで隠します。
後ろのおはしょりは、帯のたれよりも下に出ない程度まで上げれば、綺麗に整わなくても帯で隠れるので大丈夫です。

身幅が広すぎる場合は、下前(右側の身頃)を体に合わせるときに、左脇で余った分を前(体から離れる方)に折り返します。
上の背中心は背骨の位置に合わせますが、腰より下の背中心は右にずれて構いません。

芭蕉布(ばしょうふ)

芭蕉布とは、沖縄に伝わる植物から作られた布のことです。
原料は糸芭蕉という草で、分類上はバナナと同じバショウ科に属します。
13世紀頃には織られていたとされる非常に歴史の長い織物で、沖縄では日常着として広く使われていました。各家庭に糸芭蕉の畑があったとも伝えられています。

しかし、第二次世界大戦後、戦中戦後の混乱や時代の変化などによって、芭蕉布の歴史は途絶えかけてしまいます。
その中で、芭蕉布を沖縄の特産品として蘇らせようとする人々の努力により、沖縄以外の地域にも徐々に知られるようになり、現在では「稀少な夏着物」として高額で取引されています。
素材となる糸芭蕉の減少、職人の後継者難などの問題により生産量はまだ多くありませんが、伝統工芸品として見直されたことで、後世に残すための活動が進んでいます。

芭蕉布の特徴は、暑い沖縄で重宝されていたことでもわかるとおり、さらりとした肌触りと通気性の良さです。
草木染めによる先染めが基本ですが、沖縄らしい紅型染めが施された物もあります。

西陣織

西陣織は日本を代表する帯の名称ですが、特別に決まった織り方を指す言葉ではなく、京都の西陣と呼ばれる地域で作られた織物の総称です。
その中には唐織、綴織などが含まれていますが、共通しているのは先染めの織物であることです。

実は、京都府内に西陣という地名はなく、京都の北西部に位置する約3平方キロメートルのエリアのことを西陣と呼んでおり、ここに西陣織関係の職人、業者が集まっています。
西陣で織物が盛んに行われるようになったのは平安時代より昔だとされていますが、平安時代に宮廷が織り手を西陣に集めて織物を作らせたことがきっかけで、この地が織物の町になったと伝えられています。

明治時代に外国からジャガード機が伝わり、これを使うことで西陣織も量産できるようになりました。
それまでは、空引機(そらびきばた)と呼ばれる大きな織機を使い、二人がかりで織っていたそうです。
現在、西陣ではコンピューターも活用して、新しいデザインの織物を精力的に生産しています。

先染め

先染めとは、布を織る前に糸を染めることで、その糸から作られた製品のことも指します。
先染めの着物は「織りの着物」、先染めの帯は「織りの帯」とも呼ばれます。

これに対して、後染めは白い糸で織った布を染めることです。

先染めは色が芯まで染みこんでいるために、色落ちや色あせがしにくいという特徴があります。
一方で、後で染め替えたり、後から柄を入れることは困難です。
また、糸の段階で染色に関係する工程が加わるため、元の糸から風合いが変わることがあります。
産地によってさまざまな個性を持つ紬は、先染めの代表的な製品です。

最も簡単な先染めは無地になりますが、完全に無地の物はそれほど多くありません。
着物の場合、一般的には複数の色糸を使って縞模様や格子模様を織り込んでいます。
もう少し手の込んだ物になると、絣の技法が使われます。

帯の場合はさらに手の込んだ柄が織り込まれます。
先染めの帯の代表例としては、博多織や西陣織があります。

絣とは、先染めの糸で模様を織り出した布です。
一言で表すと簡単そうですが、実際には、織り上がった状態から逆算して糸を染め分け、それを計画どおりに織るために、高い技術と手間を必要とします。

染め分けられた糸のことを「絣糸」と呼び、絣糸を経糸(たていと)に使うか緯糸(よこいと)に使うかによって、経絣、緯絣、経緯絣に区別されます。

絣糸は、糸の一部を別の糸で覆い、その部分だけ色が付かないようにしてから染めて作られます。
多くの産地では防染用の糸を巻いて結ぶという方法をとっていますが、織機を使って防染糸を織り込むという方法もあります。
この方法を使うと、手作業ではできない細かな染め分けができ、たとえば、大島紬の細かな模様は、この方法で作られています。

手作業で作られる絣は、熟練した職人が一反を織るのに数か月かかる貴重品です。
現在では、伝統工芸品として技術の保存がされる一方で、一般向けの製品については機械化が進められ、手に入りやすい価格で出回るようにもなりました。